2013年7月4日木曜日

イケダハヤトさんへの手紙 : 敵意ある他者との対話について

ブログ記事「イケダハヤトさんの『他人を批判するときにユーモアを使うのは「卑怯」です』の感想」に対してイケダハヤトさんからメールいただいたことがきっかけとなり、以下のようなメール(一部)を頂戴しました。
特にツイッター、ブログ上で敵意ある他者と対話する際に、何が必要だとお考えになりますか?ああいった場合の対話の方法について、明文化したいんです。
その返信をイケダハヤトさんの許諾を得て公開します。Webとして読みやすいようにHTMLタグを整えたことと、誤字を修正したこと、プライベートな内容を伏せた他は原文のままです。


日時: Sun, 30 Jun 2013 22:20:08 +0900

イケダハヤトさん
徳丸です。メール拝見しました。

対話の話題に入る前に、批判の話から始めたいと思います(編注:イケダハヤトさんのブログエントリ『プロブロガー・イケダハヤト流「批判の作法」』を想定しています)が、批判記事に関しては私もガイドラインを持っていまして、Tumblrで公開しています。
批判記事を書く場合のガイドライン
  • 批判するだけでなく読者に有益な情報を提供すること
  • 十分な検証など批判に根拠をもたせること
  • 読んで面白い記事にすること
  • 必ず一晩以上寝かせてから公開すること
ってな感じでやっていますが、中々難しいですね。最近は数日寝かせる場合も多いです
批判記事を書く場合のガイドラインより引用
Tumblrを今見たら48リアクション(主にリブログ)いただいていますので、それなりに支持をいただいたものと思っていますが、「こうしなさい」とか「こうするといいよ」と言うものではなく、あくまで自分のためのガイドラインです。

上記に加えて、私にとっては当然の前提なので明記していませんが、「人格攻撃をしない」というのがあります。もっと言えば、「人物批判」もしないことにしています。ネガティブな人物批判と人格攻撃は区別がつきにくいからです。では、何を批判対象とするかというと、その方の記事や行動などです。つまり、「人」ではなく、「もの」や「こと」を批判することにしています。そうすれば、表現さえ誤らなければ人格攻撃にならないからです。
私はセキュリティ業界ではけっこうキツイ批判記事を書いていますので、逆に批判されることはあり、その中で人格攻撃めいたことを書かれることもあります。そうすると、私も弱い人間なので、かっとなって人格攻撃をしてしまう可能性があります。そのために、2つのことをしています。
  • 十分な検証など批判に根拠をもたせること
これは、私が書く記事が技術的な内容だからですが、2つの意味があります。1つは自分が間違っているかもしれないのに、見当外れの反論を書かないためです。
もう一つは、記事に説得力を持たせるためです。批判合戦の優劣を決めるのは読者だと思っていますので、記事の説得力はその意味でも重要です。
  • 必ず一晩以上寝かせてから公開すること
これは、冷静さを欠いた記事を公開してしまわないための自制として実行しています。また、一晩置くと、冷静な目でガイドライン違反をしていないどうかを確認することができます。

さて、「対話のガイドライン」というのは特に考えたことはないのですが、対話においては(も)「相手を尊重する」ということが大切だと思います。
もっとかみ砕いて書くと、以下のようになるかと思います。
  • 相手が正しく自分が間違っている可能性を常に考慮する
  • 相手の選択を尊重する
  • 相手のプライバシーを尊重する
1番目は自明ですよね。ただし、これを認めることは辛いことでもあります。しかし、当然のことでもあります。

相手の選択を尊重するというのは、説明が必要かと思います。
物事には通常メリットとデメリットがあります。メリットのみが存在する場合は、誰もがそれを選択するので、それを議論する意味がありません。デメリットしかないものも同様です。
しかし、大半のことにはメリットとデメリットがあるので、議論が必要になるわけです。
具体例で説明した方がいいですね。例えば、イケダハヤトさんは以前、持ち家と賃貸住宅を比較して、賃貸の方がよいという記事を書いておられました(参照)。

しかし、持ち家のメリットもあるわけです。簡単に言うと、持ち家の方が、平均的なトータルコストが安くつくことです。言い換えれば、同じ費用を掛ける場合は、持ち家の方が優良な物件に住むことができます。
一方、持ち家のデメリットもあります。それは、イケダハヤトさんが書かれていたように、リスクが大きいことです。したがって、リスクを許容できるまで小さくできる場合は、持ち家が有力な選択になるわけです。
一方、賃貸住宅の家主は、持ち家を持つことのリスクを抱えています。そのリスクは家賃に乗せているわけです。

さて、イケダハヤトさんの記事に戻ると、以下のように書かれています。
これからは日本の人口がバンバン減少していきます。このグラフを見て、持ち家を変える人の気持ちがいまいちわかりません。マゾなのですか。今から約35年後、2050年には1億人切っちゃうんですよ。
持ち家志向が低下中!バブル期から値段が変わらぬ「家賃」の下落に期待より引用
かなりキツイ調子で持ち家の人をdisっていますね。ここには、物事にはメリットとデメリットがあり、さまざまな選択があり得るという配慮が欠けています。
そして、リスクを負う人が選択をするわけなので、その方の選択は尊重されるべきだと思います。たとえば、イケダハヤトさんがサラリーマンをやめてフリーランサーになるというのは、イケダハヤトさんの選択であり、そこにはメリットとデメリットがあるでしょうが、他人がとやかく言えるものではありません。それと同じことです。

今日イケダハヤトさんが対話のテーマにしていた実名か匿名かという問題もそうですね。両者にもメリットとデメリットがあります。なのに、匿名の方が「逃げ道を用意している」とか「後ろめたいことがあるからではないか」とか失礼にもほどがあると感じました(私は実名で活動していて、他人事ではありますが、結構怒りながら読んでいました)。
私は実名でネット活動していますが、実名ゆえのリスクはあります。・・・ここに実際にあったトラブルを書きましたが公表は控えます・・・。さきほどの持ち家のリスクに例えるならば、「実名にはそれだけのリスクもあるのに、実名でネット活動するなんて信じられない」という言い方も可能なのです。

自分はたまたま実名で活動している(イケダハヤトさんの場合は厳密には実名に近いハンドルネームかと思います…少なくともプロフィールにはご本名書いていないですよね)としても、匿名(ハンドルネーム)で活動している人には、それぞれの事情があるのだろうなと思いやることが大切ではないでしょうか。

最後のプライバシーについてですが、当然のことのように思われるかもしれませんが、「なぜ実名で活動しないのか、逃げ道を用意しているのか」と問い詰めることは、プライバシーを明かせと脅迫しているように読めてしまいます。そのような呼びかけに「対話」しようとする人はほとんどいないと思いますよ。

次に、イケダハヤトさんが書かれていた4項目に対する感想を書きます。
  • 敬意、興味感心、覚悟
これはよいと思いますが、「覚悟」ってなんでしょうね。対話はもっとカジュアルにやってもよいと思いますが。
  • 対話という行為が攻撃的であることを自覚し、相手がそれに耐えられるか勘案する
「対話という行為が攻撃的である」と言うところが分かりません。前述のように、対話はもっとカジュアルなものだと思います。対話が白熱した議論に移行すれば攻撃的になる可能性もある(しかし攻撃的でない議論もあります)わけですが、最初から身構える必要はないと思います。
また、「相手がそれに耐えられるか」というところに、「自分は正しく・強い」という前提があるように感じました。こういうのを「上から目線」というのだと思いますが、イケダハヤトさんは上から目線がお嫌いなのかと思っていました。
  • 相手がはじめから逃げ道を用意することを許容する
前項後半に同じ。
  • 基本的に最初にこちらから質問しない
これは、意味がよく分かりません。最初から質問すること自体はよいと思いますが、相手が答えやすい質問の選択や、雰囲気作りができると良いと思います。

以上です。
メールなのであまり推敲しておりませんので、不明点などがあればご連絡ください。


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